院長コラム 『子供にも大人にもいい話』
『子供にも大人にもいい話』
今回もまた本の話題。
今回はある読書家の業者さんに勧められた、伊集院静さんの『琥珀の夢』です。サントリーの創始者である鳥井信治郎さんの実話がとても生き生きと描かれていました。
鳥井信治郎さんといえば、数年前にNHK朝の連続テレビ小説で話題になった『マッさん』で鳥井商店の大将として登場しました。主人公のマッさんと日本初の国産ウイスキーを世に出したのがこの鳥井信治郎さんです。
今でも毎日テレビCMで流れている、サントリー角瓶やトリスウイスキーは、鳥井信治郎さんが生み出したウイスキーなんです。こう書くと身近に感じますよね。
その華やで豪華かつ明るく、『やってみなはれ』の声掛けで、生涯にわたって、人を信じ、人に任せて、人を育て、人を大切にしながら、商人として生きた人の物語。
その中で特に僕が心を惹かれたエピソードがあります。タイトルにも書いた『子供にも大人にもいい話』なんです。
鳥井信治郎さんは、大阪の船場で両替商を営む家の次男として生まれます。毎朝の日課として、母こまが信治郎をつれて神社にお参りに行きます。
その途中で天神橋と言う橋を渡ります。この橋は、別名『物乞い橋』といって物乞いがずらりと並んで、橋を渡る人達に物乞いをすることからそう呼ばれていたそうです。その橋を通る前に母のこまは、信二郎に小銭を握らせます。
信治郎は、そのお金を物乞いに渡した後、彼等が芝居のように大袈裟にお礼を言う姿を見たくて仕方がないのです。
しかし、天神橋をいざ渡るとなると、母は信治郎の手をいつになく強く握りしめ、「お銭あげたかて振り向いたらあかんで。振り向いたらあかんよってにな」と鬼の形相でを告げるのです。
これは貧しい人に施しをした時、決してその人たちがお礼を言う姿を見てはいけない。それを見て満足するようなものは施しではない。『陰徳善事』の教えからくるものなんです。分かりやすく言えば、世間に、人に知られないかたちで善行をすることです。
本文を抜粋すると、『陰徳とは、古くは中国から伝わった言葉で、人間の行動の徳の一つとしてきた。陰徳はこれをなしたから何かがあるわけではない。源は信心にある。信心によって何かを受けているという考えが、自分たちも施されており、困った人がいれば施すのを当然と考える。その施しは礼を言われるものではない。さらに言えば、礼を言われたり、感謝されることを目的にすれば、それは真の意味で‘施し’ではなくなるという考えなのである。』
この教えを信治郎は一生涯守るのです。
信治郎は、大人になっても、良いことをした後はまるで泥棒が逃げるかのように姿を消したそうです。また、留学支援に寄付をして学び終えた人がお礼に行くと自分が寄付したのではないと最後までとぼけていたそうです。
なんともいい話です。
信治郎の母こまの教育。僕もこんな教育を子供にできたらなあと思ってしまいました。そんな訳で、今回のタイトル、『子供にも大人にもいい話』でした。
この本は、上下巻ありますが、あっという間に読めてしまいます。今では僕の宝物になっています。皆さんも是非。おススメです。
『うれしい、楽しい、大好き、きっと上手くいく、ついてる』良い言葉を使って、自分も周りの人も幸せにしちゃいましょう。
今日も一日いい日になりますように。